社長も所長もシルバー世代 スタッフ最高齢は84歳

神奈川県秦野市、戸川地区。県立・秦野戸川公園は、丹沢の山々から流れ来る、水無川の自然を生かした公園で、地元の人達の憩いの場としても人気がある。

相武石油・平和橋ＳＳ（出光系）は戸川公園のほど近く、自然を近くに感じながらも、住宅街が広がる地域に立地する。

このＳＳが 「シルバー人材・大活躍ＳＳ」 なのだ。

ＳＳは元々「相武自動車・石油部」が運営をしていたそうで、約10年前から「相武石油」の形になった。古谷法彦代表取締役は、次のように話す。

「私は一般企業で定年退職まで働いた人間で、相武石油の代表になったのは、相武自動車の経営者との、地元の縁です。だから就任当初は、ＳＳに関してまったくの素人でした。経営者になったのも初めて。ちなみに、今69歳です」

古谷代表の右腕となってＳＳを切り盛りするのは、齋藤鎮雄所長。

「私は元々は、三菱商事石油に勤めていました。今は74歳になります。ＳＳの所長になったのは、まだまだ現役で働きたいという思いに加え、単純に『ＳＳが好きだから』。長年業界に身を置いた人間として、実際の店舗運営に関われるのは、楽しみ・喜びでもあるんです」

ＳＳスタッフは、６名のアルバイトスタッフ。最年長の方は御歳84歳で、スタッフ平均年齢は74歳だ。

原点回帰のような営業姿勢がフルの強みにマッチした

なぜこうしたスタッフ構成になったのか、問うてみた。

「私自身が、『高齢者』とくくられる歳である事もありますよね。もちろん人によって体調は違いますが、『元気であれば、まだまだ働ける』という事を、身をもって感じている訳です。ならば、ケースバイケースではあるものの、人材募集に年齢制限をかけるのは何か違うなと思ったんです。高齢者にも門戸を開こう、と」と古谷代表。

齋藤所長は「当店はフルサービスＳＳ。すると当然、接客には重きが置かれます。お客様との会話・コミュニケーションというのはある意味、正解がないというか、必ずしも『定型』がある訳ではない。社会全体が高齢化している事もあり、この付近の住民の方も、お年を召している方は多い。すると世代としても、あるいは会話の引き出し・経験値の観点でも、高齢者はむしろスタッフとして適任なんです」と加える。

もちろん、世代を区切って採用している訳ではない。無論、若者は採らないと決めている事はない。

しかし古谷代表いわく「若くて優秀な人が、ウチに応募してくれるとは限らないですよね。むしろ若者ならば、就職先の選択肢は、高齢者よりは多くある。その点、高齢者は『どこでも雇ってくれる訳ではない』という縛りがある分、こちらとしては正直『優秀な方をピックアップして採用しやすい』のです。体が元気で、やる気さえあれば、人としてベテランというのは利点ですよ」という事なのだ。

「ＳＳ経験のない方が多いですが、そこは私がしっかりとサポートし、実務の教育係をしています」と齋藤所長。

主にハローワークを介して人材募集を行っているそうだが「未だコロナ禍とはいえ、今月だけで４名の応募がありました。先ほども言いましたが、そうなると『こちらが選べる』。特定のスキルであったり、コミュニケーション能力の高い人材を、狙って採用していけるんです」という訳だ。

「ＳＳはこれからもしばらくは、淘汰の時代ですよね。ＳＳ数が減少していくのは間違いない。であればあるほど、付加価値が大事になってくる。ウチの付加価値というのはまず、フルサービスである事。そしてさらに『気の利くスタッフが、先回りしてサービスをする』という点です。

地域顧客の皆さんは、高齢者であったり、女性であったり、ＳＳに対してサービスを望まれる方が多い。だから、車で少し走ればロープライスのセルフ店があるのを知っていても、便利さを重視してウチに来てくださる。地域に必要とされるというのが、当社のアイデンティティなんです」

安心感のあるスタッフならば、客の側も色々と相談しやすいのは間違いない。そうした人間関係がきっかけで、ワイパーやタイヤなど、油外販売につながる事も多いそうだ。ガツガツした営業スタイルではないからこそ、売れるものもある。

従前は、ＳＳでシルバー人材といったら、セルフ店の給油許可・監視員ぐらいしか…というようなイメージも強かった。しかし侮るなかれ。フルサービスＳＳスタッフとして、経験値や人間力が奏功するのが、その実という事だ。

月刊ガソリン・スタンド　2021年 9月号

P.111 「高齢者スタッフが切り盛りするSSが むしろ人気なワケ」より

【 掲載ガソリンスタンド 】

（神奈川県秦野市）