SS販売室の一角でフリーマーケットを開催しているスタンドがあると聞いてお邪魔した。群馬県前橋市内で直営7カ所のSSネットワークを展開する三山石油（ENEOS／コスモ系＝今井正太郎代表取締役）グループの一つ、三山石油大胡エスエス（コスモ系＝藤生弘久代表取締役）がそれだ。

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三山石油グループは、店舗ごとに完全な独立採算制を採用していることで知られる。

現場のマネジメントを行う責任者が、本社からＳＳ物件を借り受けて運営するのが習わしで、文字通り一国一城の主人（代表取締役）として、収支管理から決算書の作成まで個人の裁量で行っているのだ。

藤生社長は大卒後、ＳＳ未経験で同グループに入社。７年ほど現場業務を経験し、30歳の時に現在のＳＳの代表の座に就いた。といっても、プレイングマネージャーであることに変わりはない。売上と経費のバランスをシビアに管理しながら、独自の店づくりに愛情を注いできた。

設備機器ひとつ、調子が悪いからといってすぐに買い換えることなく、メーカーから部品を取り寄せ自ら修理を実施。ＳＳフィールドのライン引きはマスキングテープを切り貼りし、ピット室のコンクリ塗装も、下塗り剤から自分で塗り込んだ。

そうして浮かした経費で、お客様に少しでも快適・安心に利用してもらえるよう細かい投資を行っている。例えば、窓拭き用タオルは３枚取り揃える一方で、作業用ウエスと別けて洗濯するために洗濯機は２台設置。

さらにお客様が作業の待ち時間を気にしないでもいいようにと、商店街をぶらつくための貸出用の自転車も用意した。

それだけではない。新型コロナが騒がれるとすぐに、店内の入口に消毒設備と自動体温計を導入。近年でも補助金申請のタイミングに合わせて自家発電機を設置し、エネルギー事業者としての責務も果たした。

こうした地元想いに溢れた企業姿勢がある中で、藤生社長がふと思い付いたのが、販売室の一角でフリーマーケットを開催することだった。

もともと奥様と２人そろって大の洋服好きで、昔からあれこれ買い揃えていたという。

その昔、ちょうど地元でフリーマーケットへの出店募集があり、夫婦で冗談がてら出てみたところ、大いにハマってしまったそうだ。これなら自分のお店で展開するのも面白いと思い、そのまま販売室の一角を開放したという流れである。

ＳＳ内でのフリマは、普段は経理をしている奥様の珠恵さんが担当。主に子供服のお下がりや外出時に着なくなったお母様の洋服、頂き物のファンシーグッズなどを並べている。それも平成18年スタートからの16年間で、なんと延べ５０００点も出品してきたそうだ。

奥様の珠恵さんが語る。

「もちろん、すべての品物が売れているのではありません。季節に合わせて入れ替えしたり、不良在庫を下げたりした結果です。値段はご覧の通り、ほとんどが１００円〜２００円程度のもの。儲けは考えていないんです。

小規模のフルサービス店ですので、店内に足を運ばれたお客様の手持ち無沙汰を、少しでも和らげればという思いで続けて参りました。それでも定期的に〝楽しみ〟と言って訪れるお年寄りもいらっしゃる。モノを大切にする心とともに、そんなワクワク感をこれからも紡いでいければ幸いです」（珠恵さん）

時おり、お客さんから出品代行を頼まれることもあるが、丁重にお断りしているという。普段限られた人数で現場を切り盛りしているため、在庫や支払いの管理に時間を割けられないからだ。

また自分の持ち物であっても電化製品など壊れる恐れがあるものは取り扱わない。どんな形であれ、お客様に迷惑をかけては本末転倒だからと話す。

藤生社長が奥様の言葉を引き継ぐ。

「日々試行錯誤の連続です。フルサービスにしかできない店づくりを目指して参りましたが、アットホームな雰囲気こそ一朝一夕にはなし得ないもの。いざという時に頼りにされるお店であるために、これからも自分たちにできるサービスを心を込めて提供していきたいと思います」

ＳＳ内フリマを始めた頃は、３人いる下のお子さんがまだ赤ちゃんだったという。それが今では高校生となり、上の子は成人。ばあば（祖母）も素敵な年を重ねてきた。

家族が着なくなった洋服やグッズはまさに、藤生家の歩みそのもの。三山石油大胡エスエスを訪れた途端、ホッとするのも頷ける。すべては夫婦で育んできた〝家族の成長の思い出〟に包まれているからに違いない。

P.126 「夫婦で育む〝フリマ〟なＳＳ！」より

【 掲載ガソリンスタンド 】

（群馬県前橋市）